人を殺したことは何度もある。最初は自分の父親だった。その時の理由も『守りたいから』だった。今の世界を見ていると、あれは間違いだったともう知っている。
それなのにスザクは、『守りたいから』軍隊に入り、『守りたいから』殺人を繰り返す。
黒白の騎士
河口湖ホテルでのテロ事件後、ランスロットの整備のために、特派トレーラーに戻った。パイロットスーツの前身だけを緩めたまま、呆然と座るスザクの元に、ロイドがやってきた。
「特に不備はないよ。しかし、派手にやったねえ」
「ロイドさん、…すみません」
大事な機体を乱暴に扱ってしまったことを謝ると、ロイドは笑い声を上げた。
「面白いものが出てきたねえ」
「黒の騎士団ですか」
「ああ、それも。」
「…、冗談ですよね」
人質は解放されたが、主犯の日本解放戦線は全員が自害を含め死亡という結果だ。普通の人間だったら後味が悪いことこの上ない。しかし、恨みがましい疑問を呈した後で、ロイドにそれを求めるのは無謀であると気付く。
スザクがロイドの方を見上げると、彼は肩をすくめ、スザクの隣に腰を下ろした。今までに無かった態度に、スザクは彼の横顔を観察した。
「知ってるう?僕はいつでも真剣。」
「…すみません。」
「彼等はねえ」
ロイドが続ける。その瞳は聡明な光を放っていた。
「義賊を気取り、自らを黒と称する。」
「はい。」
「君と似ているし、君と正反対なんじゃないか?」
スザクはこの人には敵わないと思った。最初にスザクの矛盾に気付いたのもロイドだった。それから、今、憎むべき矛先に、ある種同族嫌悪を感じているスザク自身にも、当然気付いているんだろう。
スザクは日本解放戦線の人間たちを殺した。何人も。ランスロットによって。
スザクは自分の手の平を見つめる。この苦しみを終える方法は簡単なことだった。しかし、終えてしまったら、あの時抜いた刃の責任を負うことが出来ない。責任を負うために、スザクは罪を重ねる。それはきっと、自身の逃げ道を狭めていく。
こんな思いをするのは、自分だけで十分だ。
黒の騎士団、ゼロは、絶対に止めなければいけない。
スザクと同じように、世界の変革を求めている男。スザクと同じで、それを出来る力が自分にはあると信じきっている男。結局は、この手で同族を殺すことしかできない力だと言うのに。
スザクの思案に気付いてか、ロイドはぽんぽんと頭を撫でた。
「友達は助かったようだね。」
それから口笛を吹き、もう帰って大丈夫だと告げられる。ロイドの表情はいつもと何ら変わりがないのだけれど、いつにない態度にスザクの方が照れてしまった。
「行きます。あの、ロイドさん、ありがとうございました。」
立ち上がり、頭を下げて着替えへと走る。
『守りたい』という最初は些細な願いからだった。『なくしたくない』とは今も想っている。守った先に、自分がいなくても、それがスザクが生きる根幹の理由であるから、スザクはそれで幸せなのだと信じきっていた。
犯した罪を消そうなどとは思っていない。ただ、責任を取ろうとして、ただ、楽になろうとしている。
一番結果に捕われているのはきっと、彼では無く…その一連の経験をしている自分自身なのだと、スザクは仮面の男に思いを巡らせた。
2008/03/22 終わり