生徒会室にルルーシュはいなかった。シャーリーやミレイ会長によると、ルルーシュは最近付き合いが悪くなったという。
以前から貴族との賭けチェスなど、悪い遊びに興じてはいたらしいが、一緒に悪ノリをしていたリヴァルでさえルルーシュが何をやっているのか知らないみたいだ。
シャーリーがルルーシュについて話しているのを見て、彼女が彼のことを好きなのだと気付いた。ルルーシュはどうなのだろうか?何故だか気になって、シャーリーの為だと言い訳してルルーシュに聞いてみようとした。シャーリーに阻まれて、出来なかったけれど。
「ルルーシュ!」
「スザク、どうした?」
いざ、ルルーシュと対面すると、その時感じた、焦りのようなものはあまり気にならなくなった。
丁度スザクが寮に帰ろうとしていた所に、学園に戻ってきたルルーシュと鉢合わせたようだ。
ルルーシュは、ナナリーのこともあり、寮ではなく学園のクラブハウスに間借りしている。教室だけでなく、昨日の今日で偶然会えたことに、声が弾んだ。
「ちょっと話すか」
クラブハウスの入り口横の生け垣前に、二人で腰を下ろす。
「ルルーシュ、生徒会のみんなで週末に河口湖にいくらしいよ。僕は軍務で行けないんだけど」
「ああ、…俺も週末は駄目だな」
「そうなんだ。シャーリーが悲しむね」
「シャーリーが?」
スザクがうっかりと口を滑らせたことに、ルルーシュは首を傾げる。シャーリーとは生徒会の仲間ではあるが別段仲がいいと言うわけではない。寧ろ、リヴァルの方が仲の良い方なのだろう。
「ああ、リヴァルはバイトか。じゃあ、女の子集団で楽しいじゃないか」
ルルーシュがそう解釈して、スザクに笑いかける。スザクが生徒会メンバーに馴染んできているのが、嬉しいのだろう。
でも、今日はルルーシュ、いなかったじゃないか。
スザクは自身の足首を眺めながら、自分とルルーシュとの仲はどれ程のものなのかと考えた。
ルルーシュが星空を見上げながら大きく伸びをする。それから立ち上がろうとした気配を察知して、スザクはルルーシュの腕を掴んだ。
「スザク?」
「ルルーシュ、」
脳裏に浮かんだのは、恋する可愛い女の子の、柔らかな唇だった。不慮の事故で奪ってしまった、シャーリーの唇。
「ルルーシュ、君は僕に、キス出来る?」
簡単に言葉にした瞬間、心音が加速し始める。衝動で発したその欲求は、簡単にスザクの心を納得させた。ルルーシュを見つめると、彼は一度瞬きをした後、ゆっくりとスザクに近付いてくる。
美しい紫に、反射的に目を瞑ると、額に擽ったい感触が走る。ゆっくりと瞳を開けると、ルルーシュは照れた笑みで囁く。
「俺はスザクが望むことなら、なんでも出来るよ」
その優しい声に、スザクは涙が出そうになる。自身の腕を伸ばし、ルルーシュを抱き締めると、長い指先で髪の毛を撫でられた。
もしここで、唇にしてほしい。そんな風に言ってしまったら、ルルーシュは困ってしまうだろう。それでも最後には絶対にしてくれる。だからスザクは、ルルーシュと友達であるために、…対等であるために、その肩口に顔を埋めて唇を噛み締めた。
2008/03/11 終わり