奪われた覚悟

「ルルーシュ、学校では他人でいよう」

そう言ったはずなのに、どうして自分はここにいる?


スザクは今日起こったことを回想する。会長の命令で猫を捕まえようと奔走していたら、でルルーシュとの関係がバレてしまった。正確には、ルルーシュがばらしてしまったのだ。


友達だ、と。

友達という言葉を反芻して、スザクは喜びを隠せなかった。今度はルルーシュの方が肯定してくれたのだ。ほんの少しの間しか一緒にいなかった、長い間離れていた、スザクのことを友達であると。


ただ、不安もある。自分がイレブンということで、ルルーシュに迷惑をかけることになってしまうだろう。
生徒会にまで入れてくれたが、やはり距離を取った方がいい。ルルーシュが生きていたという事実だけで、スザクは満足だった。

「何考えてる?」

ルルーシュが、カップを二つ持って部屋に入ってきた。スザクはすっと背筋を伸ばす。

…なのに、どうしてルルーシュの部屋にいる。

ルルーシュから湯気の上がるカップを受け取り、じっと彼の瞳を見つめた。あの頃とあまり変わっていない紫色が、戸惑ったように揺れた。

「やっぱり、変わった?」
「大人しくなったって?」
「俺はガサツになったんだろ?」

ルルーシュがスザクに笑いかけ、ベッドの隣に腰かける。あの頃が懐かしい。だから、こんな風に思い出し、比べて、困ったように笑うんだろう。見えない壁が、ルルーシュとの間にある気がした。

「昔は、こんな風に辛気臭い顔なんかしなかったもんな」
「色々、あったんだ」

ルルーシュもそうだろうけど。スザクの言葉は、思ったより突き放すように響いた。壁を作っているのは、スザクの方かもしれない。

スザクは軋む体と傷だらけの体を抱くようにして、ルルーシュのベッドへと体を倒した。ルルーシュは気にしない様子で、カップの中の熱い紅茶をちびちびと飲みながら、スザクの投げ出された足を見ていた。

「ね、ルルーシュ」
「うん?」
「僕が言っていたこと、覚えてるよね」
「多すぎて分からない」
「そうだな、つい昨日だ」
「それは鮮明に」

茶化すように、けれど真面目な顔で、ルルーシュは肩をすくめた。スザクの言葉を待たずに、ルルーシュは続ける。

「悪かったよ。だが、あそこで嘘をつくのもわざとらしいだろ?」
「うん、それは仕方ないよ。でも…」
「来いよ」
「え?」
「明日も明後日もその次の日も。軍が無くて暇なら、いつだって。」

畳み掛けるように言われたかと思うと、体に重みが走る。ルルーシュがスザクの上に乗り掛かり、ぎゅっと抱きついてきた。

「歓迎会もやらなきゃいけないし、ナナリーとも遊ばなきゃいけない。猫の名前も考えなきゃいけないし、」
「ルルーシュ、」
「俺と話をしなきゃいけない。お前は、俺と話をしなきゃいけないんだ」

ルルーシュがスザクの胸に顔を埋め、息を継ぐ暇もなく続ける。スザクは反論も出来なくて、子供のように震えるルルーシュの頭をただ撫でてやる。

「全て話さなくていい。スザクを形作ってきた、過去の話じゃなくていい。これからの話でもいい。幸せな、他愛のない、ナナリーの大好きなお花畑みたいな、」
「ルルーシュ、」

スザクはルルーシュの名前を強く呼んだ。はっとルルーシュは顔を上げる。その瞳は瞬きをすれば涙が溢れそうな程、うるんでいた。

瞬間スザクは、ルルーシュに対し感じていた負い目などどうでもよくなった。どのみち既にこの頭の良い友人は、スザクのそうした危惧についても理解している。それでもスザクとの友情をとってくれたのだと、ルルーシュの必死な様子で分かってしまった。

スザクは唇を噛み締め、ルルーシュの首に腕を回した。体が密着して、ルルーシュの心音までが聞こえてくる。

「ルルーシュ、ありがとう」
「スザク、」
「友達だって言ってくれて、嬉しかった」

ルルーシュが、スザクの背中に手を回す。抱き合った体が、じわじわと熱を生みだしていく。同じ気持ちだからだろうか。まるで繋がっているかのような甘い幸福感が、スザクの体を包んでいた。




2008/03/8 終わり
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