ゆっくりと目を開く。ぼやけた視界に、真っ白な天井が映った。
(……、ここは、)
「おめでとー!」
いきなり耳に響いたかん高い声と、視界に飛込んだ眼鏡の男性によって、スザクの意識は一気に覚醒させられた。
「ここ、は…?」
「軍の医務室だよ。君、よく生きてたね。」
体を起こすと、鈍い痛みが脇腹に走る。何重にも包帯が巻かれ、丁寧に手当てされていた。
自分は規則を破ったというのに、何故…?
いぶかしげに目の前の男性を見ると、空色の瞳が面白そうに細められた。
「裏切り者の騎士になる気はあるぅ?」
特別派遣嚮導技術部によって開発された、ランスロット。その第七世代型ナイトメアフレームの適合テストに、スザクは異例の一致を見せていたらしい。イレブンであっても気にしない、というこの科学者気質のロイド・アスプルンド技術部長に、要は見染められたということだ。
「シンジュクゲットーでのテロ活動の制圧にてこずっているらしくてねぇ。僕のランスを見せるいい機会だと思って」
ロイドは医務室の机の中から何かを取りだし、スザクの前にぶら下げる。
黄金と白のキー、それから銃弾の傷がついた金時計が視線上で揺れる。
「やってくれるよね?」
もしも断れば、また命はないだろう。それから、失敗をしても。爆弾とされていた情報操作も疑問に残る点だ。
…だが。
テロによる混乱を収めたら、ルルーシュとあの少女の無事を知ることが出来るだろう。
無事であってくれるだろうか。
スザクは両手を握り締め、ロイドに向かって頷いた。
「やります。やらせてください!」
「うん、いい目」
眼鏡の奥の瞳が、聡明そうな輝きを見せた。
まだ自分に生きろ、と言うのですか。……父さん。
パイロットスーツに着替えたスザクは、ランスロットのコックピットに乗り込んだ。まだ傷口は完璧に塞がっておらず、じわじわと痛みは体を蝕んでいる。
ならば、自分は。
操縦桿を握り締め、ぐ、っと膝に力を入れる。
「ランスロット、発進」
自分はまた、彼を助けるために、戦うまでです。命尽きるまで。
フルスロットルで発進したランスロットは、黄金の機体を輝かせながら、謀略が廻らされたシンジュクへと向かった。
裏切りの、騎士。
日本人の名を捨て、ブリタニアの傘下に入った自分にぴったりの機体だ。
ルルーシュのことといい、何か七年前との運命的な繋がりを感じずにはいられないスザクだった。
時を刻むことを忘れた父の時計が、音を立てて小さく揺れた。
2008/02/21 終わり