全てバレてしまった。七年前の自分の罪も、醜い自分の本心も、全て。本当はルルーシュの為になんて、他の人の為になんて、思ったことなかった。僕は僕の為にしか生きられない、死ねない。
ある意味良かったのかもしれない。ルルーシュにさえ、僕は体裁を取り繕った結論を打ち明けようと思っていたんだから。それをしていたら、僕は一生自分を許すことが出来なかっただろう。
膝をつき震えるスザクの腕を、ルルーシュが引いて立ち上がらせた。一人称さえ定まらない、混乱状態の彼を落ち着かせようと背中を擦る。
(物語は必要だからな。日本にも、ブリタニアにも)
ルルーシュは事実を隠されていた理由の解釈を述べただけだった。スザクはもう、恐らくは隠されていたことは問題ではない境地にきていた。ルルーシュにとっては、偽りの自分を演じなくてはいけない葛藤をずっと抱えてきたものだから、その理由、こじつけがスザクにとって救いになるのではないかと思った。そうしてルルーシュ自身も救われてきたからだ。
それに対しスザクはありがとう、とだけ答えた。けれど、焦点の合わない視線は変わらない。ルルーシュは、失敗した、と思った。
スザクをかき抱き、大丈夫だ、とそれだけ繰り返した。懺悔を重ねるように。
「ル、ルーシュ」
「スザク?」
「ルルーシュ、ルルーシュ、」
何度も名前を呼び、胸にすがるスザクが、ルルーシュにとってどうしようもない庇護の対象となったのだろうか?
説明が出来ない位に、ルルーシュは衝動で動いた。スザクの唇を、己のそれで塞いだ。
震える微かな声をもう聞いていたくなかったというのもあるかもしれない。
スザクの言葉を飲み込むように、全てを塞ぎ、舌を入れ、掻き混ぜた。何度かしたことのあるそれとは明らかに違う色を持っていた。
「ん、……」
合わせ目から時折、鼻にかかった声が漏れる。スザクは段々と頭がクリアになっていく感覚を覚えた。
ルルーシュの肩を引き寄せ、その結合を深くする。吐息を荒げ、目を細めると、際から涙が溢れた。それを親指で撫でられたかと思うと、床の上に体を押し倒された。
「っ、はぁ…」
ルルーシュを見上げると、紫色の瞳がこちらを心配そうに見下ろしていた。
頬は上気し、細い首筋からは汗が流れていた。スザクは無意識にそこに手を伸ばし、指でなぞった。ルルーシュの体が倒され、再びキスを落とされた。
(歪んだ主観で判断した結論ではなくて、純粋な起源、理由……)
スザクは今度は目を閉じる。炎を湛えた紫は、変わらずこちらを捕えている。スザクの心臓を握り締めている。
(僕が後悔出来ないのも、僕が僕でいられるのも……)
再会した時、確かに感じた幸福を、スザクは思い出す。唇が解放された時、苦しげな表情を浮かべるルルーシュに、スザクは言葉をかけていた。
「ルルーシュ。僕は、君じゃないと駄目みたいだ」
はっきりと告げる。恋なんて甘く優しいものじゃない。愛なんて重く図々しいものじゃない。忠誠心なんて押し付けでもなく、ましてや確認する友情なんかじゃない。
ではなんなのだろう。依存なのかトラウマなのか羨望なのか。
スザクの言葉に、ルルーシュも躊躇った。それは告白というには些か曖昧過ぎたし、決意というには危険をはらんでいた。ルルーシュの方もその時は多大な葛藤を内に秘めていたし、それを隠し通そうという覚悟も足らなかった。けれどその覚悟が未発達だったからこそ、ルルーシュはスザクの身勝手さを受け入れる残酷さがあったのだから、その時のスザクにとっては一時の至上の幸福となっていた。
ルルーシュはスザクに一度頷いた。気の利いた言葉は浮かんで来ない。スザクの手を持ち、その甲にキスを落とした。誓いのような儀式めいたキスに、スザクは憂いと喜びを同時に手にする。
この時確かに、交わることの無かった線が重なりを見せた。過去の一点に戻り、回帰することによって。
2008/03/28 終わり