「面白そうなことをしているね」
「閣、下……!?」
扉を開けてみたら、枢木スザクが扇情的な姿でこちらに目を向けた。
涙で驚きが滲んでいる。戦場をかける姿とは全く違う様子だ。
だが、これも。
悪くはないな。
シュナイゼルは顎に手をあて、しばらく逡巡する振りをする。
その間に、どうやらスザクを勤務中に辱めていたらしいロイドが彼から離れた。
咎める気はない。もとよりロイドに、忠誠心というものを求めていない。
彼も承知のようで、微笑みながらシュナイゼルに近づいた。
「これはこれは、閣下。お久し振りです。」
「あぁ、これでも結構忙しいんでね。」
君のように趣味に生きるわけにもいかない、と言外に込めていると勘違いでもしたのだろうか、ロイドはそっとスザクの方に手を向け、紹介するように明るい弁明をした。
「丁度、デバイサーの実験をしていたのですよ。」
「ロイド、こういうことはダメだと言っているじゃないか。」
ロイドの心無い表現にシュナイゼルが嘆息すると、おびえたように震えていたスザクの表情が、少し気の抜けたように変わった。
涙で濡れた頬と、息切れしている半開きの唇……開け拡げられたパイロットスーツから見える赤くはれ上がってしまっている突起がなんとも痛々しい。
こんな可愛らしい子によくひどいことが出来るものだ。
シュナイゼルはマントを優雅になびかせながら、動く力を奪われているスザクに近づいた。
そっとその頭に触れてやると、スザクは翡翠色の瞳を大きくさせた。
「閣下…すみません」
「どうしたんだい?」
「今、体の自由を奪われていて。敬礼ができません」
あぁ、そういうことか。
意外な言葉に、シュナイゼルは微笑む。
彼、枢木スザクは、本当に興味深い人間だ。
ロイドが気になるというのも、納得出来る。
その出自を根拠に、始めから疑問に思っていた。
彼の忠誠心はどこからきているのか。そもそも、それは忠誠心というものなのだろうか。
それは彼の中にある戒め?後悔?ではその矜持の行方は?
ふっと、彼の視線に目を向けた。シュナイゼルが何を考えているのか、疑問に思っている目だ。そこに警戒心はない。
あぁ、悪い癖だな。
シュナイゼルは再び、そのやわらかい髪の毛に指を絡める。気持ちよさそうに目を瞑った彼の頭を引き寄せて、そのままかみつくようなキスをした。
「っ!?」
ごちゃごちゃと考えてしまうのは、悪い癖だ。
要は、彼に興味がある。
この甘い唇を、もっと味わいたい。
「ん、むぅ……」
「ここがきつそうだね。」
一度も触れられないまま立ち上がっていた、かわいらしいスザクの分身を握った。
びくんと腰を浮かせ、小さく喘ぐ。しかしそのまま扱いてはやらず、その先端に爪を埋め込んだ。
「っ、ぁ…、閣下…っ、?」
何をされるのか、今度ばかりはスザクは目を見開いた。
ちゅくちゅくと先走りが先端から卑猥な音を立てる。
その様が楽しくて、シュナイゼルは何度もそこを責め立てた。
「はぁ、……、ぁ、やぁ、」
先端への強い刺激に、スザクは目尻に涙を浮かべた。
シュナイゼルはスザクの体を引き寄せ、いたわるように耳朶をなめる。
その優しい行為とは裏腹に、先端を一層強く刺激され、スザクは息を荒げる。
「ど、して、そこばっかり……」
「ここが好きなのだろう?いけない子だ、たくさん溢して」
苦痛にゆがめられた顔をもっと見ていたくて、シュナイゼルは人さし指を先端さらに埋め込んだ。
もう達せるくらいに先走りをこぼしているそこは、赤く熟れて痛々しい。
「っ、う、……」
涙に濡れた頬、汗ばんだ額、震える唇に、順番に優しいキスを落とす。
クチュクチュと刺激を与えたまま、甘い唇も舌を使って十分に吸いついてやると、緑色の瞳がぎゅっと閉じられた。
「感じている?」
「くっ、ん……」
ふるふると頭を左右に振って、快楽の解放を思いのままに叫ぶのを我慢しているようだ。
「閣下、な……ぜ、」
「愚問、だね」
抱きしめた体は頼りなく震えるが、縋りはしない。
快楽に素直だと思ったのだが、意外に強情だ。
けれど、人の温かさに弱いのだろうか、切なげに睫が揺れる。
指先で先端を塞ぎながら、もう一方の手を後に秘められた入口に無遠慮にねじ込む。
「ぁ、ん……!」
「誘っているようにしか見えないよ」
優しい声で辛辣な言葉を紡いでやる。
しかし、固く閉じられた内部へと侵入していこうとしたら、ひどく抵抗された。
「ゃっ、ぁ……やめて、くださぃ…!」
「初めてではないだろう?」
シュナイゼルは、自分の言葉に傷ついている自分に気付いた。
この美しい花は、もう誰かの手によって摘み取られているのか。
当たり前のように思えたが、何故だか納得できない。
それは、彼がはっきりとは感じたことのない敗北感だった。
「いやっ、いやだっ…!!!やめっ、そこは、ゃ……」
悲痛に叫ぶが、彼の四肢の動きは奪われている。息切れぎれになりながら、その声帯でしか抵抗することは出来ないだろう。
なんて、弱い。
不意に、彼は記憶の中では幼いままの弟を思い出した。
美しく、矜持を持った弟だった。
不幸な境遇の彼を、シュナイゼルは助けることが出来なかった。
あの頃の自分は、とても弱く無力だった。
ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア。
今はどうしているだろうか。
シュナイゼルは内部の指の動きを止め、じっとスザクを見つめた。
赤く濡れた頬、潤んだ瞳が大きく開かれる。
「……閣下?」
「イきたいのなら、言いなさい」
「…っ、」
「そうしないと、ずっとこのままだよ」
「ぁあっ…!」
尿道を拡げるように、指をさらに埋め込む。
これ以上ない程に痛むだろう。今までとは違く、快楽を与えようとする行為ではなかった。
「言いなさい」
「ぃや、です……!」
「スザク、」
「っ、……」
唇を噛み、痛みに耐える様が扇情的だ。
じわじわと、普段のシュナイゼルらしくない感情が沸いて行く。
どうして、なぜ、抵抗する。
そのまま、流れに身を任せていれば、楽だというのに。
ルルーシュも、彼も。
圧倒的な力の差、権威の差を見せつけられて、それでも尚向けてくる燃える炎のような瞳は変わらない。
あぁ、弱者の象徴のように思っていた、籠の中の鳥。
それは私の方だったのか。
シュナイゼルは切なげに顔を歪めて、スザク戒めていた指を離し、両腕で彼をかき抱いた。
「閣下……?」
「その言葉すらも、言ってはくれないのだね」
いや、それ以外も。きっと彼は何も言ってはくれないだろう。
彼とは違う、この弱い私には。
「タイムアウト。スザクくん、体動くんじゃない?」
「あ、」
ロイドの言葉に思考が中断されると、スザクがぎゅっとシュナイゼルの背中に腕を回した。
驚いてスザクの方を見ると、甘えるように肩口に顔を埋めてくる。
「閣下、申し訳ありませんでした」
「どうして?」
「そんな顔をさせてしまって」
言葉が出ずに、スザクのやわらかな髪に指で触れた。
少し湿ったそれは心地よく指に絡まる。
シュナイゼルは不思議に思った。
私はいったい、どんな顔をしていたんだろうか。
本気でわからず、しかし無理に抱こうとした相手にまで謝られてしまうほどの顔、をしていたらしい。ぞっとした。
「閣下、そろそろ時間なのでは?」
「あ、あぁ、そうだな。」
そっとスザクから体を離し、乱れたパイロットスーツを直してやる。
部屋から入ってきた時のまま、優雅にマントを翻し、出口へ向かう。
ロイドとスザクの敬礼に軽く会釈をし、扉を開ける。
「スザクくん、」
「はっ、」
「……また会おう」
「閣下が、望みになられるのなら。」
不思議な子だ、と思う。
今の彼は凛とした、あくまで軍人の表情を崩さない。その奥には、シュナイゼルの情動を震わす色のある瞳が見える。
衝動で動いてしまったことに後悔をしながらも、シュナイゼルはやはりスザクに惹かれずにはいられなかった。
2007/10/24 終わり