あおぞらの下で

空はこんなに青いのに

はぁ。

斜め前の席から、小さなため息が聞こえた。そちらに目を向けると、柔らかな髪を指で遊びながら、窓外を見つめる横顔があった。

まったく、スザクのヤツ…。

今の授業は世界史だ。教壇に立つ教師はたんたんと教科書を読みあげて行く。気を抜くと眠ってしまうような、面白みのない授業ではあるが、真面目なスザクが気もそぞろになるのは珍しいことだった。

そんな表情をするな…!

ルルーシュは今すぐスザクをひっぱりだして、抱き締めたい衝動にかられた。彼の表情はどこか憂いをおびていて、細められた瞳によって頬には睫毛の影が落とされていた。ため息の漏れた唇は薄く開いたまま、赤い舌が覗く様はまさに扇情的だ。

何かあったのだろうか?

スザクが時々ひどく悲哀に満ちた表情を浮かべるのを、ルルーシュは黙って見ていることしかできない。いつもいつも、彼を救いたくても救えない自分の無力さに苛立ちを覚える。

どうすれば笑ってくれる?

無邪気に、あの頃のように。

ルルーシュが本当に心から笑うことが出来たなら、スザクも笑ってくれるのだろうか?

だったらその可能性はゼロに限りなく近かった。


授業の終わりを告げるチャイムが鳴った。生徒たちは次の移動教室の準備を始める。

「スザク」

猫毛がぴくんと反応し、こちらを向いた。

「なんだい?ルルーシュ」
「授業中、窓の外を見ていただろう?どうしたんだ、珍しい」

聞くとスザクは見る見るうちに赤くなった。どうも様子がおかしい。ルルーシュはスザクとの距離を縮め、その肩に腕を回す。

「何か気になるものでもあったか?」
「違う…って、ルルーシュ、近いよ!」

耳元に息をふきかけ尋問しても、口を割らない。スザクはいつもにも増して頑固だった。そう頑なになられたら、逆に気になる。スザクの表情からして、父親のこととか軍のこととか、そう敏感な問題ではなさそうだ。多分に、ルルーシュのことだろう。

「と、とにかく、次は化学だよ?早く行こう」

机から教科書を取り出し、さっと立ち上がる。耳まで赤くしながら背中を向けるスザクに、だいたい36通りの思考行動が伺えた。かわいらしくて仕方ない。今すぐスザクの手を引いて、授業なんてサボってあの晴れ渡る青空の下に行きたい。なんて欲求も沸いたが、真面目なスザクのことだから、あっさりと授業を選ぶだろう。

昔と今のスザクの相違にイライラすることはなくなった。今のスザクが何より大切だし、根幹の部分は変わっていないと分かっているから。

ただ、ちょっとつまらないな。


「ほら、ルルーシュいくよ。」

教室に他の生徒はもういなくなっていた。スザクがドア口でルルーシュに声をかける。

「あぁ。なぁ、スザク」
「うん?」
「手、つなごうか」

荷物を持ってスザクの方に行き、小声で囁いた。スザクはまた真っ赤になって、前を向き歩き出す。ルルーシュが追い付ける範囲で。ルルーシュは駆け寄って、その指先を掴んだ。

「ルルーシュ、見られたら」
「大丈夫。ていうかもう授業始まってるから」
「え、…」

スザクは気付いていなかったみたいだが、授業間の10分という休憩はもたもたしているとすぐに終わってしまう時間だった。しかもアッシュフォードのように広い校舎の学校では、移動にもけっこうな時間がかかるので尚更だ。

「急がなきゃ…!」
「スザク」

名前を呼んで、手を握る力を強くする。

「ルルーシュ……」
「……外、いい天気だな」
「ダメだよ、サボるなんて」
「どうせ今から遅刻して行ったって、怒られるだけだよ」

別にこんなんでスザクを言いくるめられるとは思っていない。しかしルルーシュは、願望も含めて出した一番有効な状況を想定し、神妙にスザクへ声をかける。

「ルルーシュ、化学好きじゃないか。遅れても、きちんと出ることに意味が……」
「どうせ聞く気がないなら意味はないさ。」
「でも……」
「スザク、」
「ルルーシュ?」
「外、いい天気だな」

台詞と比べて真剣なルルーシュの表情に、スザクは不思議に思って耳を傾けているようだった。

「その、しないか?」
「えっ、」
「だから、外で」

ルルーシュがぐっと腕を引き、スザクを抱き寄せた。スザクは面白いくらいに動転していて、ルルーシュの胸の中で瞬きを繰り返している。

「スザク、」
「だっ、ダメだよルルーシュ!ここは学校で僕たちはここの生徒で、そのっ、ば、バレたらっ……」
「スザク」

慌てて拒絶するスザクの口をキスで塞いでしまう。

「んっ、く……」
「大丈夫だよ」
「ルル、シュ」
「スザク、したい…」
「ルルーシュ、するって、一体……」

ルルーシュから誘うことなんて、あまり無かったからか、スザクが疑問を投げ掛けた。ルルーシュは真剣な表情を柔らかな笑みに変えて、肩をすくめた。

「話をしたり、それから色々さ。」
「だったら、僕……」
「うん?」
「僕、君と遊びたいな」

控え目に言ってはにかむ。かわいらしい姿に癒されながら、さっき窓の外を見ていたのはそんなことを考えていたのか、と微笑みが漏れた。

「わかったよ。ただし、プロレスごっこな」
「意味合いが違う気がするんだけど」

ルルーシュが冗談を言うと、スザクは咎めはするが、もう渋ったりはしなかった。

今度はスザクから、ルルーシュの手を掴み、走り出す。

「ルルーシュ、行こうっ!」
「ノリノリだな」
「だって、ほんとは我慢していたんだっ」

実はさっきの授業中から。
スザクが舌を出した。
不意に7年前を思い出す。こんなに綺麗な青空の下、ルルーシュがナナリーを外に出すのを渋った時に、スザクはこうして自分の手を引いてくれた。
太陽のように暖かいこの手で。
繋がれた指先がチリチリと痛んだ気がした。

「ここの庭、好きだな」

スザクが芝生に寝転がって言った。ちょうど中からは見えず、教師も通らない通りの校舎裏の開けた庭先に二人は向かった。スザクを見守りつつ、ルルーシュは大木の幹に寄りかかる。
ルルーシュが授業をふける時に使うことがある場所だった。

「ルルーシュ、時々思うんだ」
「うん?」
「もし、もしもあの時、僕らが離れ離れにならなければ、どうなっていたんだろうって」
「もしもの話は嫌いだ」
「ごめん」
「変わらないだろ」
「え、」
「今、一緒にいる俺たちは変わらない」

ルルーシュも何度も考えたことがある。もしも、あの時、あの瞬間。自分に力があったら。もし、この力を持っていなかったら。

スザクと敵対することは、無かった。

けれどルルーシュはスザクには言わなかった。それが例えスザクにとって支えになろうと、そう考える弱い自分が許せなかった。

もしこの力が無かったら、自分の命はなかった。そして、スザクのことも助けられなかった。

流れる白い雲をぼんやりと見つめる、スザクの額をつん、とつく。
つぶらな瞳がこちらを向いた。

「ルルーシュ、何?」
「悲しそうな顔」
「?」

吸い込まれるように、額にキスをした。ちゅ、と吸い付く。

「うれしいよ」
「?」
「変わらないって言ってくれたこと。」

スザクは起き上がり、ルルーシュの肩に頭を乗せた。それから甘えるように指先を絡める。

「ほんとはさ、スザクをからかおうと思って言った冗談だったんだけど」
「うん?」
「本当にしたくなった。ダメか?」
「そんな顔をされたら、嫌なんて言えないだろ」
「俺、どんな顔してる?」

スザクはルルーシュの質問にすぐには答えず、顔を近付ける。

「君には笑っていてほしいな」

上手く隠せていなかった?泣きそうだった?

スザクの柔らかな唇を味わいながら、ルルーシュは思った。

「ん、ふぁ…」

舌を絡めながら、制服のボタンを外していく。胸の突起をきゅっと掴み、指先で遊ぶ。ぷっくりと立ち上がったピンク色のそれは、ルルーシュの情欲を更にかきたてる。

「んむ、ぅ…」

今度は唇を軽く食んで、時折強く吸ってやると、スザクは涙目になってルルーシュを見つめた。その瞳は直接的な刺激を求めて揺らいでいた。

「はぁっ、ん」

やっと唇を開放してやると、スザクがぎゅっと抱きついてきた。シャツのボタンは外せるが、さすがにここでズボンを全て脱ぐのは無理だろう。
すっかり反応しきって、きつそうに主張している制服のスラックスを開けて、やんわりともんでやった。腰をぴくぴくと動かしながら感じる姿がかわいらしい。

「ひぁっ、ぁん、ルルーシュ…」

先端を軽く爪でひっかいてやると、先走りで全体がぬめってくる。そのまま全体をしごいてやると、白濁が手の中に出された。

「んっ…」

後ろへと手を伸ばし、濡らした指先を慎ましいソコに挿入した。

「ん、く…」

割り開かれる衝撃に耐えるようにスザクが唇を噛む。ルルーシュを掴む腕に力が込められた。

「声、出していいぞ。切れてしまう」
「んっ、さすがに、やばいと思う…くっ、ん」

それもそうだな…ルルーシュは指先で後ろを慣らしながら、スザクの体をだきよせた。シャツの襟元をスザクの顔に押し付ける。

「はむ、ん…ぅっ…」
充分な愛撫は出来ていないが、スザクも感じているようで安心する。前の方も萎えることなく、快感に震えていた。

「ルル、ーシュ…まだ?」
「ん、スザク、ちょっと腰、浮かせるか?」
「ん…」

座ったまま、衣類も身に付けたままなので、あまり奥まで慣らすことは出来ない。スザクを傷つけたくはないので、入り口だけは入念に濡らしてやる。

「ルルーシュ…っ、」
「あぁ。今…」

後ろに先端を押し付ける。それから下から突くような形で腰を進めた。

「ぁ、…ぁう…」
「くっ、大丈夫か?」
「ふ…、」

いつもより狭く、ぎゅうぎゅうと締め付けてくる。襟元を噛むスザクも苦しそうだ。閉じられた瞳からは涙が溢れた。
頬を伝うそれを舐めとって、前の自身をいじってやる。

「ん、むぅ…ふぁ、」
だんだんと内壁がうねるように収縮を繰り返す。根元まで押し込められたルルーシュは、肩で息をするスザクを気遣いながら腰を動かした。

「くっ、ぁあっ、ルルー、シュ」
「っ、よくなってきたか?」
「ん、ぅ…」

懸命に頷くスザクに、愛しさをこめてキスをした。

「あぁっ、ルルー、シュ、ルルーシュ…!」
「いいよ、イって」

無理な体勢ではあったが、スザクの体は知り尽している。前立腺を先端で何度も刺激してやると、スザクはあっけなく果てた。 射精後のいつも以上にきつい締め付けに、ルルーシュもスザクのナカに白濁を打ち付けた。

「はぁ、ルルーシュも」
「うん、イったよ」

スザクは愛らしい笑顔を浮かべ、ルルーシュに抱きついた。

「ん…」

舌を絡めて、熱いキスに酔いしれる。これから先、どんな結果になろうと、ルルーシュは忘れないだろう、と思った。 この温もり、そしてこの気持ち。

幸せな感覚。
忘れていた、思い出させてくれた、スザク。お前が。

切なさも一緒に、スザクを抱き締めた。ふわふわの髪の毛が頬を擽る。
どんなに強く抱き締めても、ひとつにはなれない。

涙を我慢しようとしたら、授業の終わりを告げるチャイムが鳴った。



2007/7/26 終わり
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