愛のカタチ
Pragm
世界の悪意を一身に受けるその姿勢
その謎を、彼の過去を、そんなの気にしないって笑い飛ばせるほどに、
残酷な子供のように、愛せたらよかったのに
「ジノ?」
スザクの部屋は殺風景だった。最低限の家具しかない。最低限の衣服しかない。
最低限のものしか持ち込まない、彼は。
ソファの上には、気まぐれな黒ネコが我が物顔で欠伸をしている。
その横に、ジノが居座ることが出来るようになったのは、つい最近のことだった。
ノックもせずに入っても、それほど怒られなくなったのも、ついこの頃のことだった。
スザクには言わないけれど、そんなことがひどく嬉しかった。初恋のようだと懐かしくなる。
夜中のことだった。
スザクの部屋の扉を開けたら、部屋の真ん中で彼が着替えをしている光景が目に入った。
しまった、と焦ったのはジノの方だけだったようで、スザクはきちんと襟を合せる前に、扉へ近づいてきた。
「どうした?」
「い、や、何しているかなあ、と思って。」
「特には。これから稽古をしようと思っていたんだ。すぐ準備するから、座っていてくれるか?」
白衣もまだ着ておらず、下着のすける襦袢のみを来ている状態で(袴の構造は、以前興味を持ってスザクに教えてもらったのだ、)スザクは警戒する様子もなくジノを招き入れる。
手慣れた様子で袴の帯を締め、準備が整ってからジノの横に座る。ジノがソファの上のアーサーを抱き抱えると、横に詰めてアーサーを奪い取る。にゃー、と間の抜けた鳴き声が部屋に響いた。
「稽古って?」
ジノが聞くと、猫の首回りを撫でながらスザクが答える。
「竹刀の素振りとか、そういうの。稽古ってほどではないんだろうけど、精神統一にね」
「ふうん、」
竹刀、というのは聞きなれない単語だったが、きっとスザクの部屋に置いてある数少ない道具、あの木のような剣のことだろう、と思った。精神統一、というのはそんなに大事なものかね、とジノはスザクに問う。スザクはう〜ん、と唸った。
「多分、僕にとっては大事なんだと思うよ」
「それって、落ち着く?」
「落ち着く。まぁ、いつも、落ち着いていないわけじゃないんだけど」
「そうだな。スザクは、落ち着いている。」
わたしに比べて、と言うと、皮肉に聞こえたのか軽く肩をすくめられた。
静かな夜の部屋で、いつもとは違う趣の衣服を纏う彼を横に、なんとなく沈黙が煩わしくなる。
スザクの膝の上に乗るアーサーのひげを引っ張った。アーサーはびっくりしたようで、スザクの膝から逃げて行った。
「あ、こら、ジノ。」
空席になった彼の膝に、体を倒す。膝の感触がいつもより顕著だ、と思った。
スザクは拒絶しない。その顔を見上げると、困ったような笑顔をこちらに向けていた。
「そういえば、スザク。いいのか?」
「へ?」
「稽古。しに行かなくて」
「ああ、」
スザクはたった今、気付いたようだった。その天然っぷりに吹き出しそうになりながら、腰に抱きつく。
柔らかな感触が気持よくて、ぎゅうっと腕を回すと、スザクは控え目に押し返してくる。
「こら、ジノ」
「俺もしようかな」
「何を?」
「精神統一、」
スザクの体に触れながら、体を起こして同じ視線の高さまで移動した。軽口を叩いて笑うと、スザクの方も柔らかく微笑んで、ぎゅっとジノの首に抱きついてくる。
「僕で?」
「うん」
頷くと、スザクの方も同意するように、ソファへ体を倒していった。
照れたようにとがっている上唇だけを、誘われるままに吸うと、スザクははっと目を開く。
「どうした?スザク」
「んーん、」
引き寄せられ、口づけを深くする。
「ところでスザク、」
「ん?」
「これ、どうやって脱がすんだ?」
ジノの素朴な疑問に、スザクは吹き出す。
意外とガードが固いその衣服と格闘しながら、ジノはとりあえず、とスザクの瞼にキスをした。
柔らかな感触が心を包むような、感覚がした。
袴の帯をそっと外していくスザクの、その手に魅入られながら、胸元に顔を埋める。
心音が耳に届いた。
スザク、スザクは、わたしと居て、安心出来ているだろうか。
今は聞けないけれど。強引にその手を引くことは出来ないけれど。
いつか、いつか。
見返りを求められる自信を、手に入れる。
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