愛のカタチ
Storge
半分だけ。
その男は言った。
ジノは、経験は少なくない方だったが、そうした睦言を聞いたのは初めてだった。
いや、それは睦言ですら無かったのかもしれない。
すぐ目の前で、その男の淫らな様子に熱心になっている男、など見ていない様子で、男はぼんやりと吐息でつぶやいたのだから。それは、祈りのようなものだったのかもしれない。
まるで人のことなど信じ切っていない、諦めた様子で、だのに快楽には溺れる、そんな男のこと。
ジノはそんな男の過去を何も知らない。気にならない、とは言えなかった。
「ふざけるな!」
「っ、へ?」
情事中に上げられた叫び声に、スザクは首を傾げる。さっきまで、もっと、だとか、虚ろに甘えた声を上げていた彼だったが、ジノの声に正気に戻ったらしい。
「どうした、ジノ」
「だから、さっきの。スザクがそういうこと言うの、やだ」
「僕、何か言った?」
ごまかしているのではなく、本気で忘れているらしい。
無意識のうちに出た言葉っていうのは、きっと本人の深層心理に根付いている、強い願望。
怒りの後に、寂しい気持ちが迫ってきた。
今の彼は、ちゃんと行為をしている相手、ジノのことを見てくれている。
途中で動くのをやめてしまっている、言ってしまえばお預け状態なのに、それよりもジノを怒らせてしまったことに焦っている。
普段滅多なことで声を荒げないジノなので、不安になったのだろう。
「ジノ、ごめん。気をつけるから…」
「ん、もういい。」
ジノも、覚えていないならいい、とスザクの首筋に顔を埋めた。
ずいぶん子供っぽいことをしてしまった、と反省する。
けれど、どうしても許せなかった。
それが怖い、というのは分かる。
人間が本来持っているべき感情、なのだと思う。
でも、この場でそれを言うのか。わたしに。
彼、スザクを、愛している、自分に。
本来、受け入れる器官ではない。
強引性も必要だ。ねじ込んでいる。
彼の意識の中に入り込み、凌辱している。
認めたくはないけれど、姦淫の罪っていうのはこういうことかもしれない。
「っ、く、ぁ……」
「スザク……」
結合を深めて、脳に痺れが走る。
それでもさっきの言葉は抜けない。
多分、ジノは一生忘れることは出来ない。
(半分だけでいいから、殺して……)
それではその半分は、愛していいということだろうか。
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