Useful Days

Last Pleasure

あなたの幸せを、願っている。

それはひどく虚ろな夢だった。ある種曖昧な現実だった。
創り上げられた虚構の世界で、あなたは笑っていた。
わたしと笑っていた。

何度も何度も、わたしが見た夢だった。
決まってあなたは、わたしの腕の中から消える。
もう行かなくちゃ、と笑って。
みんなのために、と苦しそうに。

どうしても、わたしはあなたとの、二人だけの世界から抜け出すことが出来なかった。
わたしの弱さなのかもしれない。

この虚構の世界から、あなたを引きとめられなかったのは、わたしの弱さだった。
けれど、認めたくない。認めなくてはいけない。

あなたはいつも世界を見ていて、自分を見ていない。
自分の周りにいる、あなたを見ている、わたしを見ていない。

それは深い闇であったり、波打つ海であったりしたかもしれない。
わたしは何度も、あなたを引き上げようとした。
助けたいと思った。

感情のままに否定したこともあった。
癇癪を起こして傷つけたこともあった。
ひどくして、と、言われるままにしたこともあった。
本当に殺してやろうか、という狂気に捉われたこともあった。

きっかけはとても単純なものだった。

きっと、あなたの不意に見せる、その笑顔だったり、
軽やかな笑い声だったり、
悲しげな瞳だったり、
咎めるようなまなざしだったり、
尖らせた薄い唇だったり、
抱きしめると小さく震える体だったり、
優しい声だったかもしれない。

あなたが、初めて見せた涙は。
初めて、わたしの前で流した涙は。

決して、綺麗で、純粋なものではなかった。
わたしの想像とはかけ離れていた。
まっすぐな悲しみだけで、表現出来るものではなかった。
痛々しくて、見ていられなかった。

だけど、わたしは。
あなたを救いたいと思う。

憎悪の海から、後悔の藻屑から、世界の悪意から、幸福な死という幻影から。
あなたを掬いあげて、その虚ろなひとみに、わたしを映し出したいと思う。

あなたのことを、あなたの闇を、きっと理解できないけれど。

わたしは、あなたに、やさしい世界を与えたいと思う。
わたしは、あなたに、幸せになってもらいたいと思う。
純粋で、綺麗なものではない。

そうして、狂気を湛えたわたしは願う。
あなたの心からの、愛の言葉を。


2008/8/14 18話視聴後 終わり
Copyright (c) 2008 All rights reserved.
 

-Powered by HTML DWARF-