愛のカタチ

Mania

ジノ・ヴァインベルグは、自分にとって不足しているものは何ひとつ無いと、自負していた。
それはあながち間違いでもなかったし、その自信は自分の強さだと信じ切っていた。
それはきっと、彼に出会ってからも変わっていない。

彼、枢木スザクと出会ったのは、ほんの一年前だった。
噂だけは聞いていた。
イレブンであるのに、皇女殿下の騎士として就任し、それから異例のナイトオブラウンズへと昇格した。
どんな奴なのだろうか、と純粋に興味が沸いた。

ジノにはもともと差別意識と言うものがなかった。
エリア11という属領がある、というような、そんな意識しかなかった。
ゼロという反逆者がいて、多大な被害を残した、というのも、情報として入手しているのみで、何の感情も沸かない。
帰属意識も愛国心も、ジノには不要なものだった。自分という確実な存在があれば、何の不自由も感じていなかった。

「ジノ・ヴァインベルグだ。よろしく。」

謁見室から出てきた枢木スザク、を偶然見かけたジノは、彼に走りより挨拶をした。
握手を求めると、そのイレブンは何故かとても不快な様子で、あぁ、と一言だけ頷いた。
彼は警戒しているのかもしれない。彼の噂というものは、本人にも耳に入っているのだろう。
虐殺皇女の騎士、皇帝に取り入った卑俗なイレブン。

ジノが出した手の平は、行き場を失くしてしまう。仕方なくひらひらと揺らす。

ずいぶんツンツンしたのが来たな・

特に怒るわけでもなく、あくまで冷静にジノはスザクを観察する。
スザクより15センチは上背のあるジノは、うつむきがちなその表情をくまなく見ることが出来た。
毛先の跳ねた薄茶の髪の毛は、さわり心地がよさそうだ。きめ細かい肌に、やわらかそうな頬。大きめの瞳に、細くて長い睫。唇はきつく結ばれおり、赤く色づいている。
じっと、無遠慮に見つめていたら、キっとつぶらな瞳がこちらを向いた。

「なんだ?」
「いや、別に」

強い口調だったが、押し殺したような痛々しい感じがした。もっと素直で柔らかい声が、彼には合っているのではないか、と感じる。ジノは少し気圧されながら答えると、緑色の瞳が冷酷に光る。

「用がないなら、ジロジロと見ないでくれ」

うんざりとしている様子。出来ることなら、早くここから離れたいと思っているんだろう。
任務以外は関わらないつもりか。それは嫌だな、ジノは思いつき、今すぐにでも背中を向けてしまいそうな、目前にいる彼にぎゅ!っと抱きついた。

「おお、やっぱりちっちぇー!それに柔らかー!」
「ちょっ!何をするんだ!?君!?」
「ジノだよ。ジーノ。よろしくな、スザク!」
「わかった!わかったから!」

見るだけではわからないものもある。マントに包まれたその身は、細くてこのまま持ち上げられそうなほどだ。もともとの骨格が華奢なんだろう。
ぎゅっと、抱き締める力を強くすると、腕の中の体が弛緩した。もしかしたら、触られることに弱いのかもしれない。
先ほどとは打って変わって動揺を見せるスザクは、ジノの笑顔に警戒を弱めた。
首筋に顔を埋めると、微かに甘い香りがする。皮膚が薄いのか、ほんのりと色づくそこを唇で吸った。そうしたら、とうとう本気で抵抗され、背中にまわしていた腕をきつくつねられた。

「いたー!」
「ふざけるな!」
「ふざけてないよ。ただ、美味しそうだなーって」

喰ってかかるスザクをなだめつつ、弁解にならない弁解をする。

スザクは怒る気も失せたのか、そのままジノを通りすぎようとした。
ジノは焦ってスザクを追いかける。その腕に届く距離に近づいた、そう思うと、手を伸ばし、彼の体を引き寄せてしまう。
スザクはやはり、振り払うだけの抵抗をしない。出会ったときから、こんな関係は変わっていない。

女性がいるときは、その細腰でどうして、ってほどの力で拒絶される。少し気に入らない。
なんだか懐かない猫みたいで、ジノはそんな手の甲につけられたひっかき傷は、結構気に入っていた。
やっぱり、

ジノは彼を思い出しながら、微笑む。
わたしに足りないものなど、何もない。


Copyright (c) 2008 All rights reserved.
 

-Powered by HTML DWARF-